翻訳ミステリの魅力

そんなこんなしてる間に高校時代以来のミステリ熱が再燃。体調悪い時はゴロゴロしながら本を読むに限ります*1。というわけで今回の[本]カテゴリは、読んだ本じゃなくて本をオススメしてしまおうという趣旨でお送りします。
高校の時は主に海外ミステリ、しかも古典とか新しくても1960年代までの作品を主に読んでたもんですから、三つ子の魂百まで。インプリンティングの恐ろしさ。嗜好はどうしても本格ミステリ、となるわけで。
本格でもさっぱり読める短編集。大作より小品が好き、というのはミステリに関わらず何にせよ今の俺に通奏低音として通じている好みでありますが、今日オススメしますのはアイザック・アシモフ黒後家蜘蛛の会』シリーズ。5巻まで出てる短編集です。
アシモフと言えば映画『アイ,ロボット』が丁度今ホットな話題で「あれ?アシモフって言ったらSFや科学エッセイじゃないの?」なんて思うのが一般のイメージだと思んですけど、いやいやどうして、ミステリも書いているんですね。しかもこの『黒後家』、ミステリファンにもかなり人気のあるシリーズ。70年の生涯で500冊近い著書を残しつつ多方面で人気を博するなんてこいつバケモンか。ってくらい凄い、そんな人。個人的にはSFは余り読まないので、ソチラの著作はSFミステリとでも言えるものを2・3冊程読んだだけですが、それも面白いんだこれが。
 
さて、短編集『黒後家蜘蛛の会』。
ニューヨークのイタリアンレストラン"ミラノ"に月一で集まる女人禁制のブラックウィドワーズ(黒後家蜘蛛の会)の面々6人。毎回の会食ではゲストを呼んで議論を楽しみつつ食事をするのだが、一旦話がミステリじみてくるといつも快刀乱麻を断つ回答をするのは端倪すべからざる給仕、ヘンリーであった。
そうなんです、ここで主役となるのは会のメンバーではなく給仕ヘンリー、彼が柔らかな物腰で「あの、皆様ひとことよろしゅうございますか?」と入ってくると我々読者は「イヨッ!待ってました!」とばかりに胸ときめくわけです。もちろん会のメンバーだって馬鹿揃いじゃない。学者やら法律家やら作家やら、皆が皆愛すべき一癖も二癖もあるキャラクターで、本当に魅力たっぷりの人物造形は、アシモフがまごう事無きフィクションの手練だと言う事を如実に感じさせてくれるのです。
形式としては安楽椅子探偵*2モノで、トリックや謎事態は非常に小品。また、博覧強記、元祖トリビア、衒学の人アシモフの事だから、英語の言葉遊び的で翻訳だとピンとこないものも多いんです。それでもこの作品をオススメするのは全体を包む抜群の雰囲気。メンバーの会話が抜群に面白い。それにニューヨークの洗練された雰囲気がすごく良く出てる。基本的に室内劇、しかも一部屋だけで語られる話なのにすごい落ち着いてて都会的。いやもう、これを読んでこの会に憧れない奴ァだめだよ、人間として。とまで言い切っていいね。
池央耿氏の訳もまた名文で、この都会的で知的な雰囲気作りに一役買っております。「マリオは往々にして馬鹿丸出しだが、大目に見てやってくれ」なんてもう蓋し名言。「往々にして馬鹿丸出し」なんて俺の髪の毛がロマンスグレーになってブランデーグラスが似合うようになったら言ってみたい言葉No.1ですよ。
そして、アシモフ特有のウンチク。「アイ,ロボット?あぁロボットってのはチェコ語で労働っていう意味でね、そもそもチェコの作家カレル・チャペックが作った言葉なんだ。そういえばカレル・チャペックって名前は浦沢直樹のモンスターでチェコ人として出てたよね」とか一席ぶちたくなったり*3京極夏彦の妖怪談義がもう超大好きなように俺は雑学やらウンチクに弱いんだ。そしてこのウンチクが会の雰囲気を出すのにまた必須の役割をしてるっていうのがもうホント、読書の愉悦を味あわせてくれます。*4
と、まぁミステリと言えども謎解きばかりでなく雰囲気もウンチク楽しめるから再読に耐えるんですよ。実はこれシリーズで5巻まで出てるんですけど、実家と京都に1セットずつ計2セット揃えてあるくらいで。急に読みたくなるんですよ。
ホント、ミステリ初心者の方にもオススメしますので是非一回読んでみてください。読書の秋ですし、ブランデー片手に少しハイソサエティーの仲間入りをした感じでね。というわけで読め!
 
名探偵コナン、ってあんま読んだことが無いんですけど、その単行本37巻に名探偵を紹介するコーナーで給仕ヘンリーが載ってるみたいですね。我らがヘンリー!!!

というわけで黒後家シリーズ↓
黒後家蜘蛛の会〈5〉 (創元推理文庫)黒後家蜘蛛の会 (4) (創元推理文庫 (167‐5))黒後家蜘蛛の会 3 (創元推理文庫 167-3)黒後家蜘蛛の会 2 (創元推理文庫 167-2)黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

*1:よくわかんないミステリ用語が出てくるかもしれませんが、はてなにはキーワードって便利なものがあるので参照してくださると吉

*2:もともとは、安楽椅子にゆったりと腰をおろし、人から事件に関する話を聞きながら、ずばりと事件のなぞを推理をする名探偵のこと。しかし、実際に安楽椅子にすわっていなくても、事件の現場に行かず他人の話を聞いて名推理を展開する名探偵を広く安楽椅子探偵といっている  http://www10.plala.or.jp/apoe/mys_zatu24.html

*3:嫌われるので普段は薀蓄欲を押さえてます。トリビアが流行ったとは言っても笑えないウンチクは基本的に嫌われるっつーか俺の薀蓄欲がうおおおお!

*4:薀蓄好きが楽しめるミステリと言えば、他にもウンベルト・エーコの『薔薇の名前』っていう大傑作もあるんですけど、それはまたの機会に。